空色ノート

中小路昌和のBLOGです。

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-恋バイ④-  


恋愛バイアス


-17-


闇を恐れるようになっていた。
あれ以来、酒井は朝のロードワークには行けていない。家の周辺に人気が出て来た頃になって、やっと柔軟と軽いダッシュをする。体力が衰えたとは思わないが、このままではベストのコンディションを大会に間に合わせるのは困難に思えた。朝のロードワークを七瀬と一緒にやればいい、とも考えたが、最近の七瀬はどうも様子がおかしい。心ここにあらずというか、練習中もぼんやりしていることが多く、酒井とのロードワークも手を抜き気味だった。

酒井はエレベーターに乗り込むと自宅のある十階のボタンを押す。
低い音が鳴り、エレベーターは上昇。そしてすぐに二階で止まった。まただ。酒井は心臓が縮み上がる思いがした。恐る恐るエレベーターから顔を出し誰かいないか確認する。やはり誰もいない。
ここ二ヶ月というもの、いつもこの調子だった。ポストに生ゴミが入っていたり、玄関のドアノブに髪の毛が巻き付いていたりはまだ序の口で、この間などは駅のホームで後ろから何者かに背中を押されるという経験をした。無言電話は鳴り止まず、家族もノイローゼ気味であった。
酒井自身にはこういった嫌がらせをされる覚えも心当たりもなかったので困惑した。そして一番不気味に感じたのが、このエレベーターだ。何故か酒井が乗ると各階で止まる。ほぼ毎回である。一時は階段を使って上り下りをしていたが、いつだったか階段から軟式のボールが転がってきた。手にしてみるとボールがカッターか何かで滅茶苦茶に傷つけられていた。酒井は戦慄した。

七瀬は酒井と下校していた。練習が軽めに終わったと思ったら、久しぶりに吐くほどの距離を酒井と一緒に走った。酒井は何かにとり憑かれたように走っていた。まさに鬼気迫るという感じだ。
「どうしたんだ?」
七瀬は思い切って聞いてみた。近頃の酒井は出会った頃と著しい変化を見せていたからだ。最初は気のせいかと思ったが、視線をキョロキョロと周囲に走らせ、少しの物音にも過剰に反応する。口数は目に見えて減っていき、練習でもイージーミスが目立った。
「別に・・・」
酒井は最初こそ言葉を濁していたが、七瀬が強く迫ると今まで溜めていた何かを吐き出すように話しはじめた。その内容は酒井のキャラクターからは程遠く、七瀬はにわかに信じられなかった。いじめなのか?嫌がらせなのか?
「警察には?言ったのか?」
酒井はかぶりを振った。酒井の両親曰く、騒ぎにはしたくないらしい。性質の悪い嫌がらせや悪戯だとしたら、こちらが反応しなければそのうち飽きるだろうという見解だそうだ。七瀬はそんなもんなのかな、とも思ったが、酒井の両親は市会議員を務めたり、ボランティア活動に熱心だったりと、社会的ステータスの高い人種なので、そのあたりが騒ぎにしたくない原因なんじゃないかと先に頭に浮かんだ。勿論口には出さなかったが。

七瀬は酒井の住むマンションへと足を運んだ。酒井の言うことが本当だったとしたら許せない行為だと思ったからだ。帰り道で平井と出くわした。いや、出くわしたというより待っていたという表現が当てはまる気がした。当然、自分ではなく酒井をだ。何だよ、やっぱりそうかよ、と心の中で舌打ちをしたい気分になった。まぁこれも態度にはおくびにも出さなかったが。

三人で酒井のマンションまで歩いた。酒井の状況は平井も知ってるのだろうか?酒井の様子では話していないのではないかと思えた。平井の表情も読めない。今日も強烈に無口だ。
「お茶でも飲んでいってよ」
酒井は言った。
「そうか?ではでは遠慮なく頂くとしますかぁ?」
七瀬は平井に向かってちゃらけた感じで同意を求める。平井は「うん」とだけ言って付いてきた。

酒井、平井、七瀬の順でマンションのロビーに入り、エレベーターへと向かう。見たこともないような豪華なマンションだった。ロビーだけで七瀬の家が幾つも入りそうな広さがある。しかも滝。滝が流れています。七瀬は自分が場違いな場所に来たと感じたが、平井は気にする様子もない。そういや平井の家も資産家だって話だったっけ?見慣れてるのかな、こういう風景、と考えたが、すぐに思いつきたくもない思考が頭をよぎる。付き合ってるなら一度や二度は来たことがあるのかもな・・・七瀬はどうしようもなく落ち込んだ気持ちになってきた。

問題のエレベーターの前に三人は立った。七瀬は心臓が早鐘を打つのを自覚した。チン、という音が鳴って、エレベーターのドアが開く。酒井は意を決したように乗り込むと「10」の数字を力強く押した。七瀬は緊張した。本当に各階で止まるのだろうか。止まったらどうしたらいい?拳に力が入る。

「いやぁ、気持ちいいくらいストレートに部屋に辿り着いたねぇ」
平井がトイレに行くのを確認し、七瀬は酒井の顔を覗き込んだ。ほっとしたような、拍子抜けしたような顔をしている。
「今日だけたまたまってこともあるから、明日も帰りは付き合ってやるけどよ」
「でも・・・悪いし・・・」
「いいんだって。もしこのままノイローゼにでもなられたらチームにとっては損失だからな。ま、俺にとっちゃラッキーかもだけど」
七瀬はクッキーをほうばりながらおどけた。
酒井はその時、心底安堵した様子で「エースの座は渡さないよ」と言った。おお、久しぶりに見たな、この顔は。

その後、三人で若者らしい時間を過ごした。野球のこともそれなりに話したが、テレビやゲームの話題が主だった。趣味の話になって、酒井の趣味が駅弁の食べ歩きと知って驚いた。じじいみたいな趣味だな、と言って、みんなで笑った。平井もよく笑っていた。平井は裁縫が趣味だという。可愛いアップリケのついたポケットティッシュのカバーを見せてもらった。七瀬は平井の新しい一面を知った気がした。可愛い小物なんて持っていないと漠然と想像していたからだ。

「夕食もどう?」
と、酒井に言われたが、それは辞退した。ナイフとフォークが出てきたらお手上げだ。
玄関まで酒井が見送ってくれた。自分なら部屋でバイバイだ。こういう所がモテる男の所作ってやつなのか。
「また明日」
七瀬と平井が玄関のドアを開けた瞬間、けたたましいエンジン音が響いた。
「暴走族かな。最近、多いよね」
酒井が暗い声を出す。
「何が面白いのかね。奴らにとっちゃ俺達みたいなグランドで泥んこ遊びってな人種も同じように映るんだろうけど」
七瀬がそう言うと、酒井と平井は顔を見合わせて笑った。これは確実に付き合ってる。

七瀬と平井はエレベーターでロビーに降り、玄関で別れた。平井の後姿を何度か振り返りつつ歩いていたら、電信柱にぶつかった。コントかよ。
その時、足元に何か映った。
大量のツバと煙草の吸殻。その内の数本には真っ赤なルージュが付着していた。


-18-


19××年××月××日 週刊×× 増刊号
先月、本誌でお伝えした××市でのリンチ殺害事件が新たな展開を見せている。被害者××さんは、当時不良グループと親密な関係にあったらしいというのだ。××さんが以前、暴行事件を起こしたという情報も本誌はキャッチしており、××さんの過去が事件の真相を解き明かす鍵になりそうだ。イジメによるリンチ殺害事件は、不良グループ内の血なまぐさい内輪揉めという様相を見せ始め・・・


-19-


新学期になった。七瀬達は進級し三年生になった。いよいよ高校生活も残すところ一年だ。
矢野と平井と同じクラスになった。矢野は飛び上がるほど喜んでいたが、それは七瀬と同じクラスになったからではないようだ。もう無理だって、と七瀬は思うが、言っても聞く奴じゃない。一方、七瀬は平井と同じクラスになったことに困惑していた。朝のロードワークは欠かさずやっているし、毎日平井とは顔を合わせていたが、どうもよそよそしい態度で平井と接してしまっていた。原因は明白で、酒井とのことがどうしても心に引っ掛かかる。
「一年間、宜しくね」
平井が珍しく声を掛けてきた。しかし七瀬は「おう」とぶっきら棒に答えるしか術を知らなかった。

学級委員に任命された。矢野が冗談半分で推薦したら、そのまま決まってしまったのだ。とてつもなく余計なことをしやがって、という気分になったが、もう一人の学級委員が立石留美という学年でも割と可愛い部類に入る女子に決まって、そんなに嫌でもなくなった。男って生き物はどうしようもない。
早速、担任の小田先生に用事を仰せつかった七瀬と立石は、日頃入り慣れていない職員室にいた。
「このプリントを配って、今週中に提出するように伝えてくれ」
と小田は言った。自分でやれよそれくらい、と激しく思ったが、出だしから担任と揉めるのはまずいし、立石も別段不満な様子もなかったので黙っていた。
 
廊下を立石と雑談しながら歩く。
「野球部の酒井君って平井さんと付き合ってるって本当?」
立石が七瀬に遠慮がちに聞いてきた。彼女も酒井信者らしい。
「さぁ」
とだけ答え、七瀬は興味がない振りをした。
廊下の向こうからキャプテンの安藤誠二が、小柄な女の子を連れて歩いてきた。なかなか可愛いじゃないか。今日は女運がいいのかなと思う。
「よう、七瀬。似合わない物を持ってるな」
安藤が気さくに話しかけてきた。
酒井が転校してくるまでは、この安藤が野球部の男前ランキング一位だったそうで、よく矢野から浮いた話を聞かされたものだ。大概は憶測の域を出ない噂話だったが、安藤自身、女性に対して積極的なようで、七瀬も安藤が女の子を連れて歩いているのをよく目撃した。
「学級委員という大役を拝命して、その職責の重さを痛感しておるところだよ」
七瀬は政治家を気取った。
「へぇ、捨て身だね、お前のクラスは」
安藤が笑う。
「あ、そうそう」
安藤はそう言って、後ろにくっついていた小柄な女の子を七瀬の前へと促した。黒髪の綺麗な女の子で、目鼻立ちがはっきりしていて、唇が厚いのが特徴的だ。はっきり言って好みの顔だった。少女は、はにかんだような仕草で、ペコリと頭を下げた。
「マネージャーとして今日から部の練習に顔を出すから、面倒を見てやってくれ」
安藤は自分がキャプテンであるのを誇示するように言った。
普通、こういう態度をとられると腹の一つも立つのだが、安藤はそれが嫌味にならないという独特のオーラを持っていた。その時、後ろから酒井の声がした。
「沙織ちゃんじゃないか。入学おめでとう」
少女はその瞬間、驚くほど大きな声で「きゃー!酒井さん!!」と叫び、風のように安藤と七瀬の前を過ぎ去り、一目散に酒井のほうへ。・・・新入生まで酒井信者なのか。
酒井は笑顔を取り戻していた。近頃は嫌がらせの類もなくなったらしく、朝のロードワークも再開したようである。七瀬は幸せを逃す溜息を吐きながらその場を去ろうとした。
「あ、みっちゃん。平井さんの妹の沙織ちゃんだよ。もう紹介されてたのかな」
またもや酒井の声がする。
平井さん。妹。沙織ちゃん。全てのパーツが別々の形で耳に飛び込んできた。そのパーツが完全に意味を成すまでに、たっぷり五秒はかかったと思う。


-20-


朝のロードワークが終わり、七瀬は自宅で軽くシャワーを浴びた。
浴室を出るとキッチンに向かい、朝食の支度をする。ロードワークを始めるまでは母親が作ってくれていたのだが、自分の方が早く起きるし、材料さえあれば簡単な食事は作れるので、母には寝ていてもらうことにしている。七瀬の母は身体が弱く、いつもちょっとしたことで体調を崩していた。出来ることなら負担をかけたくないというのは素直な気持ちだ。
朝食はご飯派かパン派に分かれるらしいが、七瀬は断然ご飯派である。理由は白米が好きだから。違うか。本当は理由なんてないのかな、と思う。漠然とパンってやつは腹が膨れる気がしないだけだ。
手際よくキッチンで料理を作る。料理といってもソーセージとスクランブルエッグをフライパンで焼くだけ。あとは味噌汁か。味噌は少しずつ溶かすのがセオリーらしいが七瀬は気にしない。大雑把に味噌をお玉に取ると、これまた大雑把に溶かす。どうせ溶けるんだしいいじゃねーか。
平井のことが頭に浮かぶ。彼女はパン派だろうな、と思う。オニオンスープにクロアッサン。そして彩りのバランスが取れたサラダ。ヨーグルトとかも食べてそうだよな。
もういい加減にしないとな。彼は自嘲する。平井に対する感情が恋愛感情だということは分かってる。でも自分には高嶺の花だし、酒井という彼氏もいる。勿論これは噂の域を出ないけど。それでも人間には釣り合いというものがあるわけで。ああ、もう!まただよ。やめよやめよ。
 
電話が鳴った。

まだ随分早い時間だ。野球部の連絡網か何かだろうか。
「はい。七瀬です」
「・・・もしもし・・・七瀬さんのお宅でしょうか・・・」
消え入りそうな声。かろうじて女性であるというのが確認できる。聞いたことがある声だ。
「はい。そうですけど」
七瀬がどちら様でしょうか?と言葉を繋ごうとした矢先、受話器の声が濡れた。
「光春君?」
「は、はい」
「会津です。会津翔子の母です」
ああ、と声に出た。どこかで聞いたことがあるはずだった。それにしてもこれが翔子の母親の声だろうか?あの明るくて陽気な・・・
「ど、どうしたんですか?」
動揺で言葉が詰まる。
「翔子が・・・翔子が・・・」
なんだ?何なんだ?翔子が一体どうしたって言うんだ?
「おばさん、どうしたんですか?おばさん?おばさん!!」
七瀬の声は受話器越しの翔子の母に届いているのだろうか。聞こえるのは悲痛なまでのすすり泣きだけだった。
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Posted on 2011/09/29 Thu. 16:08 [edit]

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58日間で7人の女性と関係を持った方法 | 2011/10/02 12:49

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